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教えてタカアキ先生!〜奥深きミツバチの世界〜第3回「ミツバチがいなくなると世界は滅ぶって本当?」
この連載について
皆さんは「はちみつ」と聞くとどんなイメージを持たれるでしょうか?
売り場に行くと、沢山の種類のはちみつがありますが、その奥にある「はちみつが生まれるまでの物語」を覗くと、そこには草木とミツバチと人が織りなす不思議で面白い世界が広がっています。
そこで、この連載では、あなたのはちみつ選びがより楽しく豊かになるよう、会津の豊かな野山を舞台に80年以上に渡り養蜂を続ける、松本養蜂総本場(まつもとようほうそうほんじょう)の代表であり蜂場主、松本高明さんに奥深きはちみつづくりのお話をお聞きしていきたいと思います(記事内では「タカアキ先生」として登場していただきます)。
聞き手は、“沼にハマりがちライター”の「ぬまる」が務めます。毎回、女将の松本彩子さんにもはちみつのオススメレシピをご紹介いただきますので、どうぞ最後までお読みくださいね。
教えてタカアキ先生!〜奥深きミツバチの世界〜
第3回「ミツバチがいなくなると世界は滅ぶって本当?」

もしミツバチが地球上から消えたら?

ぬまる


タカアキ先生!チャオ〜!

タカアキ先生


チャオ!ぬまるくん!

ぬまる

早速なんですが、前回の最後で話題に上ったある科学者の「ミツバチが地球上から消えたら、人類はあと4年生きられるだろうか?」という言葉が気になってしょうがないんです!

タカアキ先生


そうだったね、前回は最後にそんな話で終わったよね。で、意味は分かったかな?

ぬまる

う〜ん、それが分からないんです。どういうことでしょう?はちみつは美味しいですが、それがなくなったからって人類が飢え死にしてしまう訳でもないと思いますし、もちろんひとつの昆虫がいなくなったら生態系はかなり変化してしまうと思いますが。。

タカアキ先生

そうだね。まず、この話はミツバチだけに限定した話というよりも、「ミツバチのような存在が居なくなったら」と捉えて貰うのがいいかな。それでね、人類にとってミツバチたちがいなくなることは、もっとストレートに切実なことなんだよ。今、ぬまるくんは飢え死にという言葉を使っていたけど、ぬまるくんの冷蔵庫には今どんな食材が入ってるかな?

ぬまる

うーんと、なんだったかな?ちょうど昨日買い物に行ったところだったので、結構豊富ですよ。キャベツ、玉ねぎ、人参、ジャガイモ、ブロッコリー、しいたけ、豚肉、あとアジの開きですかね。あ、あとリンゴも買いました。

タカアキ先生

なるほど。今あげてくれた中のほとんどのもの、特にキャベツ、玉ねぎ、人参、ブロッコリー、リンゴなんかの野菜や果物は、もしミツバチのような存在が居なくなったら、とても高価になったり、食卓に上らなくなってしまうかもしれないんだ。

ぬまる


え!そうなんですか!?

タカアキ先生

うん、どうしてかと言うとね、野菜や果物が育つには、というかどんな植物でも大抵そうだけど、雄しべから雌しべへ花粉が受け渡されることで実を付け次の世代の種が生まれるという仕組みだよね?そして、さらに言うと、その実や種が、私たち人類の食料になっていることが多いよね。

ぬまる


あ、確かに!僕らが食べている野菜や果物って、植物の実や種であることも多いですね。そしてそれが出来るためには、受粉されることが前提になる・・・

タカアキ先生


そう!だから、野菜や果物を育てるには、花粉を媒介、つまり運んでくれる存在が大切なんだ。

ぬまる


あ、なるほど!その媒介する存在というのが・・・

タカアキ先生


そう、それがミツバチたちという訳。

花から花へ
ぬまる

へー、そうなんですね!それは知らなかったです!というか何となく知っていたけど、発想が繋がらなかったです!でも植物の受粉にミツバチなどの昆虫ってどのくらい関わっているんですか?

タカアキ先生

そうだね。例えば花粉症の元となるスギやヒノキなど風で花粉を運ぶ植物やツバキやウメなど小鳥に運んでもらう植物もいるんだけど、植物全体で言うと、虫などの生き物に受粉を頼る割合がほとんどなんだ。

野菜や果物の花粉媒介者としてのミツバチ

ぬまる


それにしても、植物ってどうして他者に花粉を運んで貰うんでしょうね?自分の花の中で自分で花粉を付けられれば楽なのに(笑)

タカアキ先生

なるほど、そう思っちゃうよね。じゃあ、そこも少し解説しようかな。ぬまるくんが言ったのは「自家受粉」というタイプで、そういった種もいるんだけど、多くの植物は、自分とは離れた別の個体との間で受粉をする「他家受粉」なんだ。厳密にいうと、植物は種によってこれを使い分けているんだけどね。

ぬまる


そうなんですね!何故わざわざ大変なことを?

タカアキ先生


その理由は、様々な個体の花粉が交じることで子孫が遺伝的に強くなる、つまり遺伝的多様性を維持するためと言われているんだ。

ぬまる


ふむふむ。

タカアキ先生

でも、植物は自分で動けないよね。だから、「ポリネーター」と呼ばれる送粉者に花から花を移動して運んで貰う必要があるんだ。ミツバチはその代表格の一つという訳だね。そして植物は、花から花へ効率的に遺伝子を送粉してもらうために、綺麗な花と蜜や匂いで虫たちを誘き寄せるんだ。

ぬまる

そう考えると、はちみつが出来るのは、そもそもは植物の繁栄戦略の副産物なんですね!それをミツバチたちが食料にして、人間はそのお裾分けをいただくと。なんだか面白いです。ちなみに他には、どんな動物が受粉を手伝うんですか?

タカアキ先生

他のハナバチやハナアブ、蝶々や蛾たち、ハナムグリという甲虫なんかもいるね。南国に行くとコウモリやハチドリなんかもいるね。あと農産物においては人間も(笑) 自然のポリネーターに頼れない時に人間が刷毛などを使って受粉を促すこともあるよ。

ぬまる


果樹園などで、そのシーンは見たことがあります。なかなか大変な労力がかかりそうですね

タカアキ先生

そうだよね。だから農産物も基本的には自然のポリネーターに頼っているんだ。国連食糧農業機関(FAO)の調べによると、世界のほとんどの国の食料の9割を占める100種類の作物種のうち、70%以上がミツバチが受粉に関わっているというんだ。もちろん、受粉を媒介しているのはミツバチだけではないんだけど、実に2/3以上の食物に関わっているということだね。

※参照:国連ニュース(2011.3.10)
https://news.un.org/en/story/2011/03/368622

ぬまる


なんと!

タカアキ先生

つまりミツバチなどのポリネーターたちがいなくなると、スーパーに並ぶ食品が極端に減ったり高価になってしまうかもしれないんだ。さっき言ってくれた食材(キャベツ、玉ねぎ、人参、ブロッコリー、リンゴ)以外にも、アーモンド、カカオ、アスパラ、ニンジン、セロリ、ナス、ニンニク、イチゴ、スイカ、サクランボ、ベリー類、、もう言い出したらきりがないね。

ぬまる


好きな食材だらけです、、人間だけいれば農業が出来ると思っていたけど、そうじゃないんですね。

タカアキ先生

農作物だけじゃないよ。小さなポリネーターたちが居なくなってしまったら、受粉をした作物を食べる家畜、つまり肉類や乳製品なども高価になるかもしれない。そしてハチたちが居なくなれば森や野山も消えてしまい、その結果、平地や海の生態系全体にも影響が出てきてしまうかもしれないね。

ぬまる

小さなポリネーターたちは地球の環境を支える縁の下の力持ちなんですね。「ミツバチが地球上から消えたら、人類はあと4年生きられるだろうか?」という言葉は、そう考えるとなるほど納得です。

タカアキ先生


そうだよね。でもね、実は1990年代以降、ミツバチが世界的に激減しているんだ。そういった話も今後お伝えしていけたらいいなと思っているよ。

ぬまる


それは大変ですね!気になります。。

養蜂家と農家の連携

ぬまる


でも思ったんですが、前回のお話で、西洋ミツバチは自然界の中ではあまり野生化していないというお話だったのですが、農作物の送粉はどのように行われているんですか?

タカアキ先生


いいところに気づいたね。そこはね、実は農家さんたちと養蜂家の連携で行われているんだ。

ぬまる


そうなんですね!養蜂家さんって、農家さんたちと繋がっているんですね!

タカアキ先生

そっか、あまり知られてないかもしれないね。でね、農作物の受粉がどのように行われているかというと2つあって、一つは養蜂に関係なく、もう一つは、ポリネーターとしてのセイヨウミツバチを必要としている農家さんに養蜂家がそのためだけにミツバチを売ったり貸したりして提供するというやり方なんだ。

ぬまる


なんと!ミツバチを提供するんですね!

タカアキ先生


うん、一番みんなが目にするところだと、いちご農家さんかな。

ぬまる


あっ、たしかに!春にいちご狩りに行った時に、巣箱置いてありました!

いちご畑
タカアキ先生


うん、松本養蜂総本場でも毎年、春の時期に会津全域の十数件のリンゴ、サクランボ、モモ、プラムなどの農家さんに貸し出しているよ。

ぬまる


そうなんですね!なんだか素敵ですね。

タカアキ先生

一般的にミツバチを売る場合は、女王バチのいない巣箱を提供して、受粉期間だけ働いてもらう捨て蜂になってしまうことが多いんだよ。でもウチの場合は通常、群をそのまま貸し出して受粉後に巣箱を回収するようにしているんだ。それは桜の季節に続いて会津盆地に一斉に花開く果樹が、ミツバチにとっての大切な蜜源(食料)にもなっているからなんだけど、つまり農家さんの受粉のお役に立ちながら、ミツバチの繁殖にも大いに役立っているというわけ。

ぬまる


それは養蜂家・農家・ミツバチの三者にとって素敵な関係ですね!

タカアキ先生


そう感じてくれるのなら嬉しいよ。特にセイヨウミツバチのコロニーは、集中的に同じ種類の花の蜜を集める性質があるから、こういったことにも向いているね。

ぬまる


セイヨウミツバチは昔から人間の元で飼い慣らされてきた社会性のある昆虫と仰っていましたもんね。

タカアキ先生

そうだね。人間との相性が圧倒的に良かったお陰で、南極大陸を除くすべての大陸で生息することになったのがセイヨウミツバチなんだ。これまで人間との共生によって世代交代を繰り返してきたわけだけれど、これからの未来の養蜂を考えると、人間とミツバチの歴史のこともお話しした方がよさそうだね。

ぬまる


それはまた面白そうです!次回も楽しみにしています。今回もありがとうございました!

女将のはちみつレシピ

彩子さん


ぬまるさん、すっかりミツバチについて詳しくなったみたいですね!

ぬまる


もちろん!優秀な先生がついてますから。・・・おや?何か顔に冷たいものが・・・?

彩子さん


雪、ですね。いよいよ冬らしくなってきました。

ぬまる


はらはら降る雪、きれいだなぁ。でも、すっごく寒い・・・!

彩子さん


会津の冬は冷えますよね。はちみつココアを飲んで、一緒に温まりましょう!

はちみつココア

はちみつココア

■材料(2人前)
カカオパウダー 小さじ山盛り4
はちみつ 小さじ4
お湯 20ml
牛乳 240ml

■作り方
1.カカオパウダー、はちみつ、お湯を小鍋に入れ、よく練る
  この時、カカオパウダーのダマが残らないように練る
2.牛乳を入れ、軽く混ぜる
3.小鍋を弱火にかけ、ゆっくりかき混ぜる
4.沸騰直前で火を止めて完成

こちらの手順はyoutubeでもご覧いただけます。
ぬまる


優しい味ですね。なんだか懐かしい気持ちになりました。

彩子さん


牛乳の代わりに豆乳を入れてソイココアにしてもおいしいですよ。簡単なので、おうちでも作ってみてくださいね。

教えて!タカアキ先生
発行:松本養蜂総本場
語り・監修:松本高明
文章・撮影:貝沼航
レシピ・文章:松本彩子
イラスト:むらやまちかこ
教えてタカアキ先生!連載一覧

第1回「どうして蜂が蜜を作るの?」
第2回「はちみつを採るのはかわいそう?」
第3回「ミツバチがいなくなると世界は滅ぶって本当?」(現在のページ)
第4回「養蜂っていつからあるの?」
第5回「今、養蜂家が存続の危機って本当ですか?」
第6回「どうして会津で養蜂をしているの?」