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教えてタカアキ先生!〜奥深きミツバチの世界〜第6回「どうして会津で養蜂をしているの?」
この連載について
皆さんは「はちみつ」と聞くとどんなイメージを持たれるでしょうか?
売り場に行くと、沢山の種類のはちみつがありますが、その奥にある「はちみつが生まれるまでの物語」を覗くと、そこには草木とミツバチと人が織りなす不思議で面白い世界が広がっています。
そこで、この連載では、あなたのはちみつ選びがより楽しく豊かになるよう、会津の豊かな野山を舞台に80年以上に渡り養蜂を続ける、松本養蜂総本場(まつもとようほうそうほんじょう)の代表であり蜂場主、松本高明さんに奥深きはちみつづくりのお話をお聞きしていきたいと思います(記事内では「タカアキ先生」として登場していただきます)。
聞き手は、“沼にハマりがちライター”の「ぬまる」が務めます。毎回、女将の松本彩子さんにもはちみつのオススメレシピをご紹介いただきますので、どうぞ最後までお読みくださいね。
教えてタカアキ先生!〜奥深きミツバチの世界〜
第6回「どうして会津で養蜂をしているの?」
タカアキ先生


ぬまるくん、チャオ!

ぬまる


チャオ!タカアキ先生。今日は一段とお元気そうですね!

タカアキ先生


うん。いよいよ今日から、ぬまるくんに松本養蜂総本場の話をしようと思って、朝から色々考えてきたんだ。話したいことがたくさんあって…何から話そうかな?

ぬまる


うわー!楽しみです!それじゃあ、質問です!タカアキ先生は、どうして会津で養蜂をされているんですか?

タカアキ先生


いい質問をありがとう。ぬまるくんは、養蜂に欠かせないものはなんだと思う?

ぬまる


えーっと…ミツバチと、それから蜜を出す花ですかね。

タカアキ先生

その通り。草木が芽吹いて、育ち、花が咲いて、蜜を吹く。そこへミツバチが飛んできて、蜜を持ち帰り、はちみつを作る。この自然の営みに少しだけ介入してはちみつをいただくのが、養蜂家の仕事なんだ。豊かな自然と、元気なミツバチの存在があってこそ、養蜂が成り立つんだよね。

ぬまる


なるほど。ということは、会津には養蜂に適した自然があるってことなんですね。

タカアキ先生


簡単に言うとね。それじゃあ、今日はまず、会津の自然と養蜂の関係という話をしようか。

ぬまる


よろしくお願いします!

会津の樹木と花のはちみつ

タカアキ先生


早速だけど、ぬまるくん。会津といえば、日本有数の豪雪地帯ということは知っているよね?

ぬまる


はい!冬の間は、人も動物もみんな巣ごもりしたくなる寒さ…。雪と養蜂ってなんだか縁遠いように感じますけど、関係があるんですか?

タカアキ先生

ははは。たしかに、ミツバチは雨の日や気温が低い日は飛ぶことができないからね。でも、会津の養蜂と雪には深い関係があるんだよ。降り積もった雪が山々の豊かな土壌を育て、春になれば雪解け水が流れる。雪解け水は綺麗な水源となって樹木を育み、豊かな森林が生まれるんだ。

ぬまる


なるほど!雪は自然の恵みで、それが循環して養蜂に繋がっていくんですね。

奥会津・只見の山と栃の花
奥会津・只見の山と栃の花
タカアキ先生


いかにも。うちの養蜂場では、昔から栃の花のはちみつがたくさん採れるんだけど、それも雪のおかげだと思っているんだ。栃の木は、清らかな水が流れる沢に沿って生えるからね。

ぬまる


へえ?!栃の木ですか。はちみつって、なんとなく草花の蜜から作られているイメージでした。

タカアキ先生

たしかに、森の木は遠くから見ると花が咲いているようには見えないよね。でも、花はたくさん咲いているし、何より木が持つパワーはすごいんだ。樹齢200年、300年という木も当たり前で、そうした木々は安定した量の良質な蜜を吹くんだよ。何万年という昔から世代交代をしながら繋がってきた木々の存在が、美味しいはちみつをもたらしてくれるんだ。

沢添いで育つ栃の木
このような沢添いで栃の木は育ちます
ぬまる


なるほど〜。松本養蜂総本場では栃の花をはじめ、色々な種類のはちみつを扱っていますよね。どれも会津の森林の樹木の蜜からできているんでしょうか?

タカアキ先生

そうだね。栃の木、山桜、きはだ…と、古くから会津に根付いていた蜜源樹のはちみつがうちの基本的なラインナップだよ。はりえんじゅ(アカシア)だけは、19世紀前後に日本に入ってきた北米産の木だけどね。

ぬまる


ところで、今さらなんですが…。僕、タカアキ先生と出会うまでは、はちみつって一種類だと思っていました。

タカアキ先生

おっと、それは大変だ!(笑)はちみつにも色々あってね。それぞれの植物の花ごとに集めるはちみつのことを「単花蜜」、さまざまな草木の蜜が集まったはちみつのことを「百花蜜」と言うんだ。それぞれ味わいや楽しみ方が全然違うから、「単花蜜」と「百花蜜」を知っていると、はちみつの世界がぐっと広がると思うよ。

ぬまる


す、すみません!全然知らなくて…。タカアキ先生は、単花蜜を採っているんですよね?

タカアキ先生


うん。これだけ蜜源樹に恵まれている会津のような土地では、単花蜜を採った方が、はちみつの個性や魅力がより際立つと考えているんだ。花ごとの蜜の純粋な味を楽しめるからね。

ぬまる


つまり、タカアキ先生が採る単花蜜は、会津の植生を活かしたはちみつ、ということですね。花ごとの蜜の味、食べ比べたら楽しそうです!

タカアキ先生


そうなんだよ!それぞれの花によって味が違うのはもちろん、同じ花であっても年によっても微妙に味わいが違うから、そんな発見を楽しむ通な人もいるんだよ。

ぬまる


わー!奥が深いですね!

タカアキ先生


うちは代々、この会津の土地で単花蜜を極めてきているから、今度その話もしようね。

ぬまる


はい!楽しみにしています。

養蜂に恵まれた土地、会津

ぬまる

タカアキ先生、もう一つ質問です!会津の気候や豊かな自然が養蜂に深く関係しているのは分かったんですが、自然に恵まれた場所は会津以外にもありますよね…?会津が養蜂に適した土地である理由は、他にも何かあるんですか?

タカアキ先生


鋭いね!もちろん、全国には素晴らしい蜜源がある土地がいくつもあるよ。でも、会津のように養蜂に恵まれた条件が揃う場所は、そう多くないと思うんだ。

ぬまる


条件、ですか。

タカアキ先生


うん。さっき話した気候や、森の歴史や密度、水源、それから、地形といったところかな。

ぬまる


えっ。地形も関係があるんですか?

タカアキ先生


意外に思うかもしれないけど、実は大きな関係があるんだよ。ぬまるくんは、ミツバチは気温が低いと飛べないということを覚えている?

ぬまる


はい、覚えています。

タカアキ先生

どんなに蜜源樹が多くても、標高が高いところに生えていては、ミツバチはそこまで飛んでいけないんだ。その点、会津の蜜源樹はミツバチにとってちょうどいい標高の場所に群生しているから、花が咲いていればどんどん蜜を集めてくれるんだよ。

栃の花の蜜を集める松本養蜂総本場のミツバチ
栃の花の蜜を集める松本養蜂総本場のミツバチ
ぬまる


蜜源樹が生えているだけじゃなくて、生えている場所も大事なんですね!

タカアキ先生

そうなんだ。しかも会津の山ではありがたいことに、標高を変えながら、その時期ごとのはちみつを採ることができるんだよ。標高によって咲く花や時期が違うからね。ひとつの地域だけでいろんな種類のはちみつを採れるのは、それだけでもとても恵まれていると言えるね。

ぬまる


そうなんですか。花が咲いているところに巣箱を置けばはちみつが採れるのかなって、ずいぶん簡単に考えてしまっていました。

巣箱と養蜂家
巣箱を置く場所やタイミングは、その年の気候や木々の様子とにらめっこ
タカアキ先生


花を求めて九州から北海道まで移動しながら蜜を採る養蜂の仕方もあるくらいだからね。蜜源があって、そこへミツバチがちゃんと通える、ということは決して当たり前じゃないんだ。

ぬまる


うーん。なるほど。ちなみに、そういった環境はミツバチにとっても良い影響があるんですか?

タカアキ先生

そうだね、ミツバチがのびのびと飛び回ってたくさんの蜜にありつけるという、自然な状態を保てていることは良いことだと思うよ。移動しながらの養蜂は、どうしてもミツバチにも負担がかかってしまうからね。

ぬまる


たしかに、慣れた環境は居心地が良いですもんね。

タカアキ先生


人間も同じだよね(笑)会津が養蜂に適した土地だということ、理解してもらえたかな?

ぬまる

はい!養蜂家のみなさんは土地の特性を理解して、自然と対話しながらお仕事をしているんですね。はちみつの産地のことって、今までほとんど知らなかったんですけど、すごく勉強になりました!

タカアキ先生


うんうん。そう言ってもらえると僕も嬉しいよ。ところで、どうして会津で養蜂をしているの?って質問だけど、実はもう一つ、ぬまるくんに知ってもらいたいことがあるんだ。

ぬまる


はい!どんなことでしょうか。

タカアキ先生

それはね、僕が会津の地で養蜂をしているのは、父であり三代目蜂場主である松本雄鳳(ゆうほう)の意志を受け継いでいきたいから、ということなんだ。昭和後期、会津の自然林がどんどん伐採されて、さまざまな開発計画が持ち上がっていたことを知っているかな?

ぬまる


えっ…。知りませんでした…。

タカアキ先生

このままでは太古から繋がってきた自然林が崩壊してしまうと危惧した父は、仲間と一緒に自然保護活動を始めたんだよ。養蜂家として、森と共に生きてきた父だからこそ、自然を守ることの大切さを強く感じていたんだ。

ぬまる


それで、その活動はどうなったんですか?今も豊かな自然が残っているということは、成功したんですね?!

タカアキ先生

うん。2007年に会津地域の自然林は「森林生態保護地域」や「緑の回廊」に指定されて、一旦の決着がついたんだ。でも、自然保護活動がそれで終わったわけじゃない。僕たちや次の世代、そのまた次の世代、と、自然を守る強い意志を繋いでいかなければならないんだ。

ぬまる


今も会津で養蜂を続けられて、僕たちが美味しいはちみつを食べられるのは、雄鳳さんや仲間の皆さんのおかげなんですね。

タカアキ先生


本当にね。だから僕にとって養蜂は、仕事でもあり、使命でもあるんだ。

ぬまる


そうだったんですね…。会津のはちみつや養蜂のことを伝えていくことは、きっと会津や日本の自然を守ることにも繋がりますね!

タカアキ先生


うん、そう信じてるよ。さて、ちょっと話が長くなってしまったね(笑)ぬまるくん、今日最初に話した、養蜂に欠かせないことを覚えてる?

ぬまる


はい!豊かな自然と、元気なミツバチ、ですよね。

タカアキ先生

うん。今日は会津の自然について話したから、次回はミツバチの話をしよう。脈々と受け継がれてきた自然に対して人間ができることは限られているけど、どれだけ元気で“良い”ミツバチを育てられるかは、養蜂家の技術に依るところも大きいんだ。

ぬまる


なるほど、養蜂家の腕の見せ所ってわけですね!また次回も楽しみにしています!

雪解け水が豊かに流れる早春の奥会津
雪解け水が豊かに流れる早春の奥会津

女将のはちみつレシピ

ぬまる


お、スパイスがいっぱい!もしかして今日はカレーですか?

彩子さん


ふふ、カレーじゃないんです。午後のティータイムのために、チャイを作りますよ。

ぬまる


チャイって、インドのミルクティーですか?インドカレー屋さんでよく見かける…

彩子さん


そうです!今回はスパイスを煮出して本格マサラチャイを作ります。ぬまるさんもぜひ召し上がってくださいね。

ぬまる


やったー!チャイ、初体験です!

ハニーチャイ

ハニーチャイ

■材料(4杯分)
水 400cc
牛乳 400cc
シナモンスティック 1本
カルダモン 4粒
クローブ 4粒
生姜(すりおろしorパウダー) 大さじ1程度
はちみつ 大さじ4
アッサムCTC茶葉 大さじ2


■作り方
1.スパイスを砕く(カルダモンは皮が割れて中の種が見えるまで)
2.生姜をひとかけカットして潰す(パウダーの場合は大さじ1)
3.スパイス、ショウガ、水を鍋に入れ、2〜3分煮だす(沸騰すると吹きこぼれやすくなるので火の調節を!)
4.アッサムCTC茶葉を入れ、さらに2〜3分煮だす
5.牛乳を加え、2〜3分煮詰める。沸騰させると吹きこぼれるので、表面がぷつぷつしてきたら弱火にする。
6.茶こしで濾しながらカップに注ぐ
7.はちみつをカップ1杯につき大さじ1入れ、よく混ぜる

こちらの手順はyoutubeでもご覧いただけます。
ぬまる


スパイスの香りで癒されます…。はちみつの甘さもばっちり合いますね!

彩子さん


スパイスを揃えるのが難しい場合はしょうがだけでもおいしく作れますよ。インドな気分をおうちで味わってみてください♪

教えて!タカアキ先生
発行:松本養蜂総本場
語り・監修:松本高明
文章・撮影:貝沼航
レシピ・文章:松本彩子
イラスト:むらやまちかこ
教えてタカアキ先生!連載一覧

第1回「どうして蜂が蜜を作るの?」
第2回「はちみつを採るのはかわいそう?」
第3回「ミツバチがいなくなると世界は滅ぶって本当?」
第4回「養蜂っていつからあるの?」
第5回「今、養蜂家が存続の危機って本当ですか?」
第6回「どうして会津で養蜂をしているの?」(現在のページ)